All about that bug

蠢くウジが開く道

アメリカミズアブ の糞から見る世界(続き)

アメリカミズアブ を使ったメリアブコンポストシステム(ウジコン)のアウトプットであるウジ糞を含む生成物(ほとんどの文献等でこのウジコン生成物を昆虫排泄物の一般総称であるFrass(フラス)と呼んでいるようななので、”フラス”と呼ぶことにします。)がタンパク源飼料としてのうじ虫に加えて付加価値の高い土壌改良剤として一般に受け入れられ広く活用されることがローカルな生態系再生型都市形成ツールとしてのメリアブシステムの目指す一つのマイルストーンではないかと思い、そのフラスの性状や質とその有効活用に関するの情報を散見してますが、前回のipiffのウェビナーに続いて感じたことを備忘録的にまとめてみます。
 

フラス101

一般にこのフラスにはウジ糞に加えて餌の食べ残しとウジの抜け殻、処理方法によっては餌やり環境の通気性を保つための基材(ウッドチップなど)が含まれています。
ウジ糞に関してはウジ虫が何を食べたかがその質に大きく影響するので、内容物の質が定まらない家庭からの生ゴミを与える場合、ウジ糞が持つ土壌改良や有機肥料としての利用効果は使ってみないとわからない、ということになり畑や農園で即利用するには根を痛めるなどのリスクもあるので一般的にはコンポスト等の二次処理をすることが勧められています。
食産業から出てくるより質がより均一な有機物をウジ餌としている場合は、そのメリアブシステムの利用目的が飼料としてのウジ虫の効率的な飼育にあるので、大規模になればなるほど栄養価の高いウジをより短期間で飼育するための企業秘密の餌づくりが様々な有機物廃棄物の配合により行われていて、ウジ糞の質も一般に安定するので、それぞれの餌に対するウジ糞の性状と土壌微生物群や植物の生育に関わる栄養素など分析され品質表示される様です。
 
基材と食べ残しはさておき、抜け殻はcocoon, exuviae、spent pupal shell , Exoskeletonなどの呼び名が使われていますが、確か幼虫の間に6回ほど脱皮をするはずでその度に抜け殻を飼育基材の中に残していくことになり、高密度で飼育した際には当然ながらそこそこの量の抜け殻がウジふんと共に発生することになります。
で、このウジの抜け殻(ウジ殻)はいわゆる一般的な昆虫の構造を支える外骨格でその表皮は(クチクラとも呼ばれるようです)タンパク質とキチン(Chitin)がその全有機化合物の90%を占めていて水分の蒸散を防ぎ、また微生物や殺虫剤の侵入を防ぐ上で大変重要な役割を果たしているそうです。「昆虫の表皮を構成するタンパク質:泉 進
このキチンは一般的には蟹やエビの殻から抽出され医療用、食品関連用品、コスメ商品など、様々な分野で主に機能性素材として開発研究利用が進んでいるバイオ資材で、今後ウジ由来の昆虫新材料・バイオマテリアルとして活用が期待されています。
ちなみにこのキチンという名前は 1823年にはフランスの AugusteOdieJが,昆虫のクチクラから発見し,ギリシャ 語の“包む"を意味するキチンと命名したとのこと(Muzzarelli, 2009; OdieJ‘ 1823)。

昆虫キチンの利用技術の開発と応用 

 
ウジは最終幼齢(Pre-pupa)に達すると餌場から離れた外環境でのサバイバルとなる蛹化(Pupation) に向けて濃い茶色の外殻強化に栄養を使うことになり(キチン含有量が幼虫期を経て前蛹から蛹になると4倍以上となる記述もあります)、体重に対するプロテインの量が下がるとのことで動物の餌用として飼育されるウジは体重に占めるプロテイン量のまだ高い体が白っぽいうちに収穫するのがウジ業界では通例となっているようです。
爬虫類などのペット用活き餌としての利用においてもその殻の消化性が話題に上がることも多く、実際に食べた時も殻の歯応えというかなんというかその硬さはないけど噛みきれない微妙な丈夫さはなんとも言い難いウジの意地、のような印象として記憶に残っています

ウジの抜け殻


ともかくこの丈夫な昆虫の体を作っているキチン成分を含むウジ殻は土壌における分解過程で植物の環境ストレスに関わる植物ホルモンを活性化させて対ストレス抵抗力を上げるなど植物が本来持つ力を引き出し、土壌においても微生物の量や組成を変化させ放線菌類を増加させるなど、(非生物的なストレスによる)収量減少、品質低下を軽減する農薬や肥料に次ぐ第三の農業資材、バイオスティミュラントとして注目を集めつつあります。
想像するにこの昆虫脱皮殻の植物の生育に対する影響はセミでもヤゴでも似たようなものかもしれませんが、特に採取や加工の手間なしで、飼育のアウトプットとしてフラスにその注目のバイオ資材がたっぷり含まれているというのはなんともお得感が否めません。
 
話は戻り動物飼料製造が主目的ではない一般生ゴミを使って作ったフラスの二次処理(性状を土壌改良材として使い易いように安定させるために)方法としてミミズコンポンストの基材(Bedding)として利用することを勧める文献をいくつか散見してたのですが、それによると最終的にはミミコンの生成物(ミミズの糞・Worm Casiting)にウジコンの付加価値を与えた高品質土壌改良材が出来上がる(のでは)という話になっています。
 
ミミコンのプロダクトであるミミズの糞はその「物理性」「生物性」「化学性」による土壌改良効果はすでに知られているところですが、そこにフラスに含まれるウジの腸内菌に由来する多様な微生物と酵素、ウジ糞に含まれる養分(NPK)、ウジ殻由来の昆虫キチンのバイオステゥミラント効果など植物の健康な生育を促す、あるいはストレスを軽減する多様な要素が加わることで森林生態系の機能をミミックしたアーバンフォレスト的システムとして新しい都市生態系作りのツールになりそうな気もします。
 
またウジにしてもミミズにしても発酵させた物を食べる方が生育と糞の性状も良いらしいので、発酵資材や使用済みマッシュルーム基材など、都市部で利用できそうな資源の有効活用と排出者とのコラボレーションによって、ゴミ削減のための地味なコミュニティー生ゴミコンポストを利益を生み出し、都市生態系再生に必須な分散型基幹グリーンインフラへとイメージもパフォーマンスもアップグレードできそうな気もしてきます。
 
そんなこんなの妄想をケルマーナガーデンのプロジェクトを通して視覚化、数値化できないかと模索中。
ケルマーナガーデンには生ゴミとカーボン資源(木屑、段ボールなど)を攪拌して発熱させる生ごみコンポストと風呂桶を使っている野菜クズ用のミミコンがあり、とりあえずミミズは大量に出なければ手に入る。
ウジコンから出るフラスの処理用にミミコンを設置しその生成物(ミミ糞)の商品化を画策をしているので、実際にそのミミコン工程をメリアブフラスの後処理用に取り入れるには何が必要でどれくらいの時間、スペースを使うとどれくらいのミミ糞が回収できるのか、という基礎知識を得ようとしておりますがまたミミズについてはおいおいまとめてみようかと思います。