All about that bug

蠢くウジが開く道

アメリカミズアブの糞から見る世界

一般市民レベルでのアメリカミズアブ の利用の可能性を探るためにケルマーナガーデンズで場所を使わせてもらってから、そもそもこれに一体何の意味があるのか考えながら時間が過ぎておりました。

そもそもの自分の経験に立ち返ればそのどうしようもない生ゴミをすごい勢いできれいに片付けてくれる、というプロセスに関わり、それをあわよくばウジを動物に餌として与え、ウジ糞を土に戻し植物を育てるという体験には何か恒久的な情緒的価値があるような気がしています。

このプロセスを習い事ツールとしてパッケージ化できればこんなご時世の子供達の好奇心を刺激する自然生態系学習の実験素材としてなかなか良いのでは、ということでいろいろ使い道はありそう。

www.agakhanacademies.org

それはそうだとしてもこれがサービス業として成り立つためには、このメリアブシステムによってより多くの皆様の(というか自分のですが)論理的満足を得る機能的価値を見いだし、説明できる事が必要なのではという事で、いろいろ思いを馳せておりました。

前のエコ不安症の記事でも触れたのですが、その点においてはこのアメリカミズアブが生態系の中で有機物分解者として果たしている土づくりへの貢献という役割こそが我々人間が感謝すべきメリアブが提供する生態系サービス(自然の恵み)の本質であり、森の中でひっそり他の昆虫との餌取り争いをしていたアメリカミズアブ が世界の表舞台に溢れ返ること自体、原料調達のためにジャングルを削ってまで作った食料が消費されずに大量に廃棄されるシステムの結果だとすれば、以前の記事でも触れた食糧危機を理由にウジを食糧資源として売り込むことは問題解決の本質(サステイナブル、という意味では間違っていない)ではなく、あくまで土壌回復の本業に着目して社会変革的な利用方法を探るのが面白いと思える訳です。

www.greenpeace.org

国連食糧農業機関(FAO)は食糧が全人類を養うのに十分であるとしています

ということで今後メリアブの市民レベルでの使い方として地球環境的な土壌における生物多様性の損失と生態系サービスの劣化という問題に対する地元での行動手段として、また社会的には「食育」や「食生態学」のキー概念でもある「人間・食物・環境との関わり」の視点から「食べ物を作り食べる」という行為と、土壌の健康、食物生産から摂取をへて我々の健康、生きる力に関わる「栄養」という目線で(目の前でウジが育ち鶏が食べ、その卵をいただく体験を通して)食べ物について見直し考える機会の提供、地域における食育実践への貢献が考えられます。

 

話は戻りでは一体メリアブががどうやって土づくりに貢献するかというと、ウジ糞とウジ殻な訳でが、ウジ産業も勃興したばかりなのでこれがまだ研究途上らしく色々情報がweb上に散らばっていますが、昆虫を今後人間社会のために利用する動きが広がるなか、食用や飼料用の昆虫関連企業などで構成される昆虫利用と促進と市場の開拓、政策提言等を行う欧州のロビー団体でもあるInternational Platform of Insects for Food and Feed(ipiff)の昆虫糞であるfrass(フラス)の生産プロセスや利用に関する欧州おける制度等に関するwebinar録画がyoutoubeにあったので聴講してみました。

もう一年以上前のものなのでアップデート情報を探す必要があるが、全体像が把握できたので忘備録としてまとめてみます。

www.youtube.com

ゲストスピーカー4人による以下の分野に関するプレゼンテーションと質疑応答、という構成。

IPIFFのフラスに関するタスクフォースは昆虫の糞(フラス)を肥料として利用するためのEU基準値を設定する「昆虫のフラスに関するEUの基本規則」を作成するために活動している

要点としては:

(1)農地の健康な土壌を保つための昆虫糞(dejectaという名前を使っていて初めて聞いた言葉でしたが排泄物、という意味らしい)の重要性

  • 微生物や天然成分によって土壌の肥沃度を維持することは、生態系、ひいては私たちのコミュニティの健全性のために不可欠である。
  • 土壌は炭素を貯蔵し、温室効果ガスの有害な影響を軽減するのに役立つ最大の資源の一つであり、健康な生きた土壌は気候変動の解決に役立つだけでなく、健康な食物を育てるのにも不可欠である。
  • 昆虫はすでに土壌分解者の一部であるため、昆虫の糞を農地に適用することは土壌生態系で起きている自然のプロセスに習い倣うことであり、循環経済とオーガニック農法の原則に合致していること、食料生産チェーンに貴重な循環資源を導入することですべての都市コミュニティに持続的ソリューションを提供し、農業と食料生産の方法を再考する機会を与える。

(2)フラスの定義(欧州委員会規則(EU) 2021/1925)と価値

「フラス」とは、養殖昆虫に由来する排泄物、給餌基材、養殖昆虫の一部、死んだ卵の混合物で、死んだ養殖昆虫の含有量が体積で5%以下、重量で3%以下のものを意味する」。

  • 植物成長微生物として作用する特定の有益なバクテリアが含まれており、植物の健康を増進し、栄養分の吸収を促進する。
  • 興味深いNPKプロファイル(窒素、リン、カリウム)を持っているため、有機廃棄物が肥料製品(有機肥料、堆肥材料、土壌改良剤など)としてアップサイクルされる可能性が高い上、フラスはバイオガスとして利用することもできる。
  • 堆肥やその他の家畜糞尿と同様に、フラスには関連する栄養素や微量栄養素と共に土壌中の有益なバクテリアの繁殖を促すキチン質が含まれている。
  • フラスを農業に使用することは、有機農業の目標である農場からフォーク(Farm-to-fork)への戦略に合致している。
  • これらの特性により、フラスは、作物生産に積極的な農家(ブドウ園の生産者など)や、EU全域の園芸家にとって、昆虫フラスを施肥戦略の一部として取り入れることができる貴重なソリューションとなっています

(3)2021年11月29日に採択された規則(EU)2021/1925

  • 2021年11月以前においては動物副産物に関する規則(EC)No 1069/2009(後に「EU ABP法」と呼ばれる)は「ふん尿」を定義し、その使用条件(例えば、有機肥料またはその他の「技術的用途」)を明確に規制している。
  • この文書では「虫の糞」は法的に定義されていなかったが、いくつかの国の所轄官庁は、そうした製品は「糞尿」の「一般的カテゴリー」に属するべきと考え、その使用条件は他の動物の糞尿について予見されるものと一致させた。他の多くのEU加盟国では、その法的地位は不確かなままであった。
  • 2021年11月29日に採択された規則(EU)2021/1925は,有機肥料としての昆虫のフラスの生産と上市のためのEUベースライン基準を定義した。
  • この法律文は,それに応じて規則(EU)No 142/2011の附属書を修正し,フラスを市場に出すための熱処理工程の基準を,加工済み家畜糞尿に適用する基準と一致させた。具体的には、EU加盟国の市場に出すためには、各国の認可手続きに沿って、少なくとも摂氏70度で1時間処理したフラスが必要となる。
  • 昆虫のフラスに関するEU規格の制定は、加盟国の処理基準を調和させる上で重要な役割を担っている。
  • EU加盟国の事業者は、昆虫のフラスを有機肥料として使用するための認可を各国所轄庁に求める際、時間/温度基準、および規則(EU)2021/1925が提示するその他の基準(質量および体積に関する死んだ昆虫の基準、微生物の基準への準拠など)に準拠することが求められるようになった。
  • 今後議論の余地が残るのがフラスの商品として売るための加熱基準についてで現在は摂氏70度で60分であるが、状況に応じてテーラーメイドの要件(例えば、70度以下のプロセス)も考えられる。
  • 70度の過熱はフラスに含まれる有益な微生物の生存に影響を与えないと考える。

ipiff.org

とのこと。

このフラスを商品と販売するために70度で一時間過熱というプロセスを踏まなければならない、ということでウジ糞に含まれている有益な微生物を殺してしまうのでは、というのが議論の一つであった様ですが、とりあえずは安全側に立って今後様々な試験を通して本当に過熱が必要か、というのを見極めていく、的な話だったと思います。

フラス(考)また次回に続きます。