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蠢くウジが開く道

再生資源としての食品廃棄物とアメリカミズアブによる土づくりに関する考察

 

ニュージランド航空(Air NZ)がNeste社ブランドのサステイナブル航空燃料(Sustainable Aviation Fuel:SAF/サフ)を導入するという記事が出ていましたが、その燃料の原料が基本的にはアメリカミズアブの餌ともなり得る食品産業から出る廃棄物由来ということで、流し読んだ記事と関連する事柄を備忘録としてまとめてみました。

サステイナブル航空燃料(SAF)とは何か
SAF(サフ)は(日本語で「持続可能な航空燃料」)信頼できる独立第三者機関によって持続可能なものとして認定される航空バイオ燃料種別の名称だそうで、JALやANAも国産SAFを使ったフライトを行なっているそうです。
再生可能燃料の世界最大の生産企業をめざすNeste
Neste社は輸送用燃料の精製・販売に特化したフィンランドの企業でSAFが厳しい基準によって選ばれた世界中のパートナー企業から調達した100%再生可能な原材料から製造しているとしています。
ちなみにこのNesteという会社は1994年から2020年まで1000湖ラリーの名前で始まったラリー・フィンランド、世界ラリー選手権(FIA World Rally Championship) のフィンランド・ラウンドであるネステ・ラリー・フィンランドのメインスポンサーだったのですが、2020年に26年にわたるスポンサーとしてのパートナーシップを解消。で、それは再生可能な循環型ソリューションを提供する世界的リーダーになる目標を達成するためのブランド戦略刷新、”化石燃料・オイル”というイメージからの脱却の姿勢を示すもの、だそうです。
そのNeste社が製造するSAFの原材料Top3は食肉生産工程に由来する廃動物性油脂、使用済み食用油や食用油由来の様々な廃棄物と残渣であり、そのほかにも東南アジア原産のサメナマズ由来の廃棄物に含まれる油脂、米国の コーン油(Technical Corn Oil:TCO)や、パイン材パルプの精製工程の残渣由来の製紙廃液(Tall Oil Pitch)などを使用しているそうです。
Neste社によると2023年末までにSFAの年間生産量を150万トンまで増やすとのことで、上記のパルプ以外の材料は全て動物飼料としても利用されている、という記述もあり様々な技術開発で今まで使われていなかった世界中の食品産業由来の廃棄物からの資源回収争奪戦が進んで行くものと思われます。
一方Air NZによると現在のところSAFは化石燃料と比べて価格は3倍から5倍するものの、実際に利用することでその価値、コストを見極めつつ2030年までにSAFが占める割合を現在の1%から10%まで増やす予定とのこと。
同社は2050年までにネットカーボンエミッションゼロを掲げており、電気や水素を動力源とする航空機の利用も目標達成のための主要な戦略として見ているものの、航空機運航時の二酸化炭素排出量を80%以上削減できるSFAは特に長距離飛行には不可欠だそうです。
 
再生資源としての食品廃棄物の使い道
という事でジェット燃料にして飛行機が空飛ぶほどの油脂をとるのにどれくらいの食品廃棄物、お魚や動物の部位やコーンがいるのか考えるとゾッとする、という感想なのですが、いずれにしても技術革新によってせっかく生産した植物や動物に含まれるエネルギー、栄養等の価値を全て無駄なく利用できるようになるのは素晴らしい事です。
この食品廃棄物を燃料にする、というネタで以前忘備録にもしたオークランド市が個別に回収する事にした一般家庭から出る生ゴミからバイオガスと液化肥料を製造することにしたという話を思い出しました。
この件は市が生ゴミを再生燃料製造の資源として利用する事を選んだ事で、気候危機問題の解決手段であり社会的価値の高いとするコンポスト、土づくりの資源として生ゴミを市民が使う重要な機会を一方的に奪うものだと批判して、代替案を提出した市民団体、コンポストコミュニティーの働きかけがほぼ無視されてしまったというもの。
オークランド市にとっては生ゴミからの資源回収による費用対効果という意味でバイオガスと液化肥料生産は評価しやすかったのか、その点いわゆる公共の生ゴミ処理方法としてのコンポストは(一般家庭やグループでのコンポストを推奨しているものの)現時点でバイオガスに対抗できる利点、効果をデータとしてを出すのは確かにかなりむずがしそうで、土づくりの価値、長期的な社会環境コストを評価し考慮する仕組みがない事には流石に判断できないのだろうと思われます。

 

そんな中このところ環境系ドキュメンタリーなどもよく取り上げられる土壌は、その地球環境にとって果たす基盤的な重要性は一般にあまり身近なものとして扱われていない、というかそもそも接点がある人の方が少ないと感じます。土壌のwellbeing、塩梅はその多種多様な菌類、微生物、昆虫類の働きによって生態系のwellbeingそのものと繋がっているということで、食生産を通して人間の腸に作用し、雨を降らせたり、カーボンを植物を通して大気から取り込んだり、微生物は関係ないかも知れないけどアーシングで電気通して元気にしたり、しっかり理解すればいいことづくめ。

とはいえ”土”と言うのはまだまだ謎の多い分野のようで、その価値、質、微生物エコ システムの多様性やら環境と社会のwell-beingに与える影響などを評価するのは何やら難しそうですが、とりあえず土づくりが”有機農業”をしている農家や、”エコ”な人たちが取り組む特別なこと、ではなくどこの街角でも普通に行われているような社会を目指す必要があるように思うこの頃、私は単に”エコ”な人なのでしょうか。

生物の多様性と生態系サービス
それはさておき、では一体コンポストや土づくりの重要性は今後この社会においてどうやって測り、評価されるべきなのか。
とりあえず探って(ググって)みると我々がありがたく住まわしてもらっている地球は、多種多様な生きものを中心に、大気、水、土壌といった環境要素が相互に関り「生態系」というシステムとして機能し、その様々な「生態系」が依存し合うする事で成り立っているとのこと。
 
この生態系が健全に存続してこそ人間は「自然の恵み」を享受し豊かな社会生活を送れる訳ですが、この「自然の恵み」は大きく分けて4種類の「生態系サービス」として定義されるそうで、「土壌の形成」は残りの3つのサービスを支える基盤サービスとして定義されて重要どころか文字通り生命システムの基盤ということ。
 
ミレニアム生態系評価
ちなみにこの「生態系サービス」モデルは恥ずかしながら全然知らなかったのですがもう20年以上も前の2001年から2005年にかけて国連の主導で実施されたミレニアム生態系評価(Millennium Ecosystem Assessment:MA)によって提唱されたとのこと。
 
 
このミレニアム生態系評価(MA)の取り組みによって「生物多様性、生態系サービスが人間の福利を支え、人類が持続可能な発展を実現する上で大きな役割を果たしている」という理解が国際的に広まったらしく、このMAはまさに生態系サービスやその源泉となる生物多様性の評価を通じて、関連する国際条約や各国政府、企業やNGO、市民等の意思決定に役立つ情報を提供することになったらしい。
 
コンポストや土づくりの生態系サービスとしての価値と評価
このMAはその後の、2007年に欧州委員会(EU)とドイツにより提唱され発足した「生態系と生物多様性の経済学(The Economics of Ecosystem and Biodiversity:TEEB)」プロジェクトにつながったそうで、これは生物多様性や生態系サービスの経済評価の実施を通して(1)生物多様性と生態系サービスの価値を経済的に可視化し(2)すべての人々がその生物多様性と生態系サービスの価値を認識して自らの意思決定や行動に反映させる社会を目指したものだそうです。

この取り組みはこれまでの生物多様性や生態系サービスの多くをタダ(無料)同然に扱いその損失や劣化を招く意思決定をして来てことの反省を踏まえて、その価値のすべてを経済指標で明らかにすることは困難である点には留意しつつ、ビジネス、行政などあらゆる主体が、商品の購入、企業活動、政策立案など、ありとあらゆる意思決定の場面に生物多様性や生態系サービスの価値を反映していくことが重要だとしています。

それに続く2010 年には愛知県名古屋市で生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)が開催され、2050 年までに「自然と共生する世界」を実現することを目指し、2020 年までに生物多様性の損失を止めるための効果的かつ緊急な行動を起こすことを目的として、20 の個別目標(愛知目標)を設定、以後各国が取組みを続けてきたらしい。
 
そして、2012年には(2018年末の段階で)131の国が加盟する政府間組織である「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services:IPBES)」が設立され、MAのような地球~地域スケールでの科学評価を含め、自然資本や生態系サービスについての多様な評価を通じて、生物多様性条約をはじめとするさまざまな政府間交渉や、関係国等による生物多様性の保全やその持続的な利用に向けた政策の形成に必要な知識基盤を強化、能力形成、新たな知見の生成、政策支援に努めているそうです。
「土地劣化と再生」をはじめとする「地域・準地域評価」の他に、「花粉媒介者、花粉媒介及び食料生産」テーマ別の評価が完了し、その成果がIPBESの公式ページをはじめ、さまざまなメディアを通じて公表されている。

 

そのIPBESは2019年に「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」を公表し、生物多様性の人類史上これまでにない速度での減少と、生態系サービス(自然の恵み、寄与)が世界的に劣化していること、それらの変化要因が過去 50 年で増大していることを指摘した、とのことです。

↑のリンクからIPBES土地劣化と再生に関する評価報告書政策決定者向け要約を眺めたところ
(1)土地劣化は、地球の陸地の至る所で発生し、土地劣化の防止及び劣化した土地の再生は、人々の福利を保証するために緊急の課題である、こと
(2)緊急かつ協調した行動が取られない限り、人口増加、大量消費、気候変動などの要因により、土地劣化は悪化する、こと
(3)土地劣化への対処・行動は、時間が経過するにつれますます困難になり、緊急かつ大胆な取組の変更が必要である、という事が4年も前に発表されたその緊急性が太字で強調されているではありませんか。(報告書の要約翻訳に3年かかっているようですが。。。)
(ちなみにこのサイトの”政策決定者向け要約(抄訳)[日本語]”のリンクは死んでいますが、ここのリンクで読めます。)
まとめの一部としては、土地劣化は気候変動の大きな原因で世界的な人口と消費水準が高まることで食料・繊維・バイオエネルギーの消費も増え、農業・畜産・林業が今ある自然地域へも拡大する可能性が高いことから肉の消費を抑え、畜産から植物ベースの農業へ切り替えることで、この拡大や環境負荷の抑止の一助となる、としていて、市民社会の担う役割について消費者の教育と意識啓発が重要で、「責任ある消費」は土地劣化を止めるのに不可欠である。としている。

consciousplanet.org

これはコンポストや土づくりシステムを「消費者の教育と意識啓発」のツールとして活用普及させる根拠として捉える土台になると思うところです。

2018年に発行、訳は去年2021年に発行
その後の2020 年に生物多様性条約事務局がまとめた「地球規模生物多様性概況第5版(GBO5:Global Biodiversity Outlook5)」によると、ほとんどの愛知目標についてかなりの進捗が見られたものの、20 の個別目標で完全に達成できたものはない、とのこと。
 
この最後の二つのリポートの共通メッセージは「生物多様性の損失を低減し、回復させるために、経済・社会・政治・科学技術における横断的な社会変革(Transformative Change)により生物多様性損失の根本的な要因(社会・経済活動による影響=間接要因)を低減させることが必要」だとしています。
 
このメッセージはつまり(勝手な解釈ですが)経済活動による経済活動のための社会変革が絶対条件であり、前述の生物多様性や生態系サービスの価値を高める事で利益を上げられるようなビジネスモデルの創出、社会環境問題解決への貢献をミッションとするパーパスドリブンな企業とそのサポートをするエコシステムなど、責任あるビジネスと消費者が市民社会の軸とならなければならないように感じます。
 
 
昨今のB Corp認証の普及などを見ると様々な社会環境問題に対する姿勢や貢献に関する情報の自主的開示などがもやは商売の前提となって来ているようにも思えます。
 

 

ということで、このご時世にこの基盤サービスたる土づくりがバイオガスやら液体肥料作りより優先順位が低いのはいかがなものか(オークランドの話ですが)とも思えるわけです。

前述のTEEBプロジェクトは現在は各国における取り組みを支援することなどにより、政策決定などにおける生物多様性の価値の主流化の実践を進めている、ということなので軽く調べたのですが、残念ながらここNZでTEEBと関連する取り組みなされている情報は見つからず、TEEBが推進する形での生態系サービスの経済的可視化や自然資本の価値評価はされてない模様。

とはいえ以前のペットフードの記事でも書いたように、ここしばらく牛のゲップに含まれるメタンガスによる温室効果ガスと排泄物、牧草肥料の流出による流域水質汚染で酪農産業と政府の責任が問われている中「生態系サービスの経済的可視化や自然資本の価値評価」はかなりセンシティブな政治的トピックでもあと思われるので(憶測ですが)都合上あえて独自の評価方法を使っているのかもしれない。

commonknowledgeinsect.nz

グローバルな動きとしては近年においては2021年に「民間企業や金融機関が自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みを構築する国際的な組織」である自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosure:TNFD)が国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)、国連開発計画(UNDP)、世界自然保護基金(WWF)、英環境NGOグローバル・キャノピーの4機関により設立されたり、欧州を中心に政策としての取り組みが始まっている概念であるサーキュラーエコノミーなど今後、少なくとも先進国やグローバル経済活動の原則、ルールとして、企業が関わる原材料の採掘に始まり商品生産から廃棄までのライフサイクル全体の自然環境、特に劣化していたり保護価値の高い生態系サービスとの依存関係を開示、評価することを求める仕組みができるくるのでしょう。

ちなみにこのサーキューラーエコノミーというコンセプトは、最近流し読んだ論文によるとまだはっきりとした定義はなく、contested concept (本質的に論争的な概念)で少なくとも様々な分野のステークホルダーによって114通りの定義づけがされているそうです。

ただ、最も多く参照されている定義Ellen MacArthur Foundation (2012)によるもので、

”「サーキューラーエコノミー」とは、意図とデザインによって修復的または再生的な産業システムである。それは、「使用済み」概念を修復に置き換え、再生可能エネルギーの使用へとシフトし、再利用を妨げる有害化学物質の使用を排除し、材料、製品、システム、そしてその中のビジネスモデルの優れたデザインを通じて廃棄物の排除を目指すものである。"

だそうです。

“[circular economy is] an industrial system that is restorative or regenerative by intention and design. It replaces the ‘end-of-life’ concept with restoration, shifts towards the use of renewable energy, eliminates the use of toxic chemicals, which impair reuse, and aims for the elimination of waste through the superior design of materials, products, systems, and, within this, business models” 

自分もオンラインのサーキュラーエコノミートレーニングコースを受けてみて基本的にサステイナブルとか言っている場合ではない、という視点を植え付けられまして、我々が数世代先の子孫にとっての先祖として明確な未来のビジョンを持ち、現在の問題に対して日々のビジネスを通してラディカルな変化を起こすために勇気を持って共に取り組むための行動力を持てるか、という問いにまず向き合うことに始まり、それに尽きた気がします。

www.xlabs.nz

様々なビジネスを通じて商品の開発、材料の調達から顧客による消費、商品の役割の終わりまでどの工程のどのレベルでどれだけ生態系に対する影響を与えているか、その生態系に対するダメージの回復、再生が考慮、数値化され、デザイン作業によって各工程の”生態系ダメージ”と”廃棄物”という存在が排除し再利用するサーキュラーなシステムを作れるか、という座学とケーススタディでした。

Circular by Design Circularity Louise Nash Planet-Centric Design The Circular Economy

 

SAFとアメリカミズアブ 

いずれにしても基盤生態系サービスである土壌の形成に貢献し、飼料供給サービスもこなすマルチなメリアブが提供する価値が今後評価されるのはメリアブを扱うビジネスのやり方次第、という気もします。いわゆるウジを飼料として利用するのは食品産業に任せ、ウジ糞(フラス) を土づくりに使う市民運動の先駆けとなり、世界中の街角にメリアブファームをはびこらせたいと思っているのは私だけでしょうか。
 
生ゴミ食べたメリアブウジは恐らく飼料として流通させるのが安全面の理由から難しそうだし、そんな時代になればいっその事し尿を含む都市から出る全ての有機廃棄物をメリアブの餌にして育ったウジからウジ油を絞ってSAFを製造した方が個別に有機廃棄物集めてSAF用の油脂絞るより資源回収効率良かったりして。
そうなれば新しく建てられる都市住宅にはコンポスト(汲み取り)トイレがスタンダードとなり、ウジオイルで飛ぶジェット機(ミズアブジェット!)で海外旅行に出る日が来るのかもしれない。
ちなみにこのミズアブジェット、ラベルをよく見ると、幼虫の変態を制御し成虫の発生を長期間防止、と書いてある。レビューを見るとずいぶん効果もあるらしく、普段一応 Insect Warefare を念頭に”メリアブの内在的価値を尊重し、慈愛と憐れみを持って”扱っているつもりなので、なんとも毒ガスを吹き付けられて何か無慈悲な苦しみを強いられているウジたちがいると思うとなんとも居た堪れない気分になるのは私だけでしょうか。。